TOP>組合レポート(K-REPORT)TOP>実績情報レポート>立退料における営業上の損失について

立退料における営業上の損失について

 

建物の明渡しのための金銭給付金額、すなわち立退料を求める場合、借家の立退料としては、一般に借家鈴木修不動産鑑定士権の対価である借家権価格、移転実費の他、営業用借家の場合には明渡しに伴う営業上の損失等が考えられる。

従って、まず借家権価格を求め、さらに移転実費、営業上の損失等を考量して鑑定評価額等を決定することが多い。

今回は美容院焼き鳥店の2業種の営業上の損失等について具体的に検討してみました。

美容院のケース

美容院では営業の移転に伴う顧客の喪失等の損失が考えられるので、一時休業期間等を考量する。

(1)美容院経営の一般的な概要

美容院

  1. 美容業は、その役務の提供方法として原則的には1人の美容師が1人の顧客に接し、個々の顧客の様々な意向を汲んだうえで、セットやカット等の施術を施す業務であって、そのサービスが商品価値となる
    その過程で機械・設備を使用することも通常であるが、サービスの大部分は人的な労働力に頼る、典型的な労働集約的な産業であり、合理化や省力化の困難な業種といえる。
  2. 美容業は、常時雇用者の規模が4人以下の事業所が全体の約9割を占め、営業形態についても個人経営が7割強を占めている。美容院スタッフも店主や家族従業員などの身内関係者を中心に構成していることが多く、生業的な事業所が大多数であり、零細性も強い。
    特に住宅街や郊外に立地する住宅地型の美容院は周辺居住者が主な客層で、固定性が強く、生業的、家族的経営が中心である。
    また、美容業は資格を要するものの、新規開業は比較的容易であるため、必然的に過当競争を招きやすい体質を有している。さらに美容大手企業の進出も多く、系列化、チェーン店化の動きも見られる。
  3. 美容業の多くは、生業的な個人経営であるが、売上高は立地条件や店舗・設備、美容技術等の優劣が端的に現れる。一方美容業の支出は、人件費が圧倒的に多く、他の定期的支出は水道・電気・或いは家賃等が中心となる。

 厚生労働省編「経営実態調査報告(平成12年度)」による美容業(健全企業)の売上高に対する利益率は14.5%、人件費38.9%、材料費14.2%、賃借料5.6%、減価償却費4.0%、その他営業費8.7%とされており、最近は人件費、家賃支出等の固定費の負担増が進んでいるため効率的な経営が期待されている。

 また国民生活金融公庫総合研究所編「小企業の経営指標(2004年)」による美容業の業種別平均は売上高総利益率85.2%、人件費対売上高比率52.0%、さらに規模区分(1~4人)で売上高総利益率85.2%、人件費対売上高比率48.7%、都市区分(50万人以上の都市)で売上高総利益率85.3%、人件費対売上高比率51.3%である。

(2)営業上の損失等の算定例

過去3年間の収入平均は10,000,000円、仕入平均は900,000円である。この数値は上記と比して概ね妥当なものと判定する。従って純収益は、9,100,000円/年、758,000円/月と判定し、他に移転することにより1ヶ月休業、半年間30%、以後半年間20%・10%各減収とした。

 758,000円+(758,000円×0.3+758,000円×0.2+758,000円×0.1)×6ヶ月≒3,500,000円

焼き鳥等飲食店のケース

やきとり等飲食店(大衆酒場)を営んでいる場合、営業の移転に伴う顧客の喪失等の損失が考えられるので、一時休業期間等を考慮して当該金額を判定した。

(1)大衆酒場経営の一般的な概要

焼き鳥屋

 大衆酒場は、「居酒屋」に代表される遊興飲食店であり、ビール、焼酎、日本酒等の酒類の提供を中心に、つまみとなる食品を提供する業態が一般的である。外食産業のなかで「大衆酒場」に焦点を当てると次の特徴が認められる。

  • 気取らない、親近感がある
  • 庶民的、一般的な安直さがある
  • 不特定多数の人々の幅広い愛顧がある

 従ってその立地は、商店街のほかに通勤途中の駅周辺、或いは住宅地域の外周付近といったところが多い。
 従来、居酒屋・大衆酒場といえば男性独占の場という感があったが、近年は女性客の来店が増加する傾向にある。さらに、これまでは男性グループで来店していた顧客が家族連れで、食事を兼ねた楽しみの場として利用するなどの変化も見られるようになり、最近はこのようなニーズをとらえた居酒屋チェーンの台頭が著しい。このような外部環境の中、顧客はほとんどが男性で、1~2名単位の利用者が中心の、「酒を飲む」という直接的な欲求を満たす古いタイプの大衆酒場は、近年の居酒屋人気に反して衰退傾向にある。低価格での飲食・サービスの提供を、客席形態で実施する居酒屋の大手チェーンが主な競合であり、価格帯については大衆酒場のほうが安価ではあるが、サービスや飲食とともに会話や時間を楽しみたいという消費者も多く、大衆酒場が押されているのが実際の状況である。

 大衆酒場は、①商品は安価である、②狭い店舗・少ない従業員でも営業が可能、という特徴を有しているため、一般飲食店の収益性を左右するような商品の販売価格や人件費のコストダウンによる収益性アップは難しい。また安価でメニューを提供するという性格上、大きな価格変動も見られない。大衆酒場の収益性に影響を与えるのは主として売上高であり、特に来店客数と回転率によって決定される。

 TKC経営指標(平成25年版・黒字企業平均)による「酒場・ビアホール」の売上総利益率は65.4%と高いものの、販売費・一般管理費の対売上高比率は62.7%であり、売上高営業利益率は3%程度と低くなっている。ただし大衆酒場は、店舗面積が小さく、従業員数も少ないという特徴があるため、販売費・一般管理費は小さくなる傾向にあり、その結果売上高営業利益率も高くなるものと考えられる。

 また日本政策金融公庫総合研究所編「小企業の経営指標(2010年)」による「酒場・ビアホール」(健全企業297社平均)の売上高総利益率は68.7%、人件費対売上高比率は35.7%である。

(2)営業上の損失等の算定例

 過去3年間の売上(収入)平均は約10,000,000円、仕入平均は約2,500,000円である。この数値は上記と比して概ね妥当なものと判定する。従って純収益は、7,500,000円/年、625,000円/月と判定し、他に移転することにより1ヶ月休業、1年間30%、以後半年間20%・10%各減収とした。

625,000円+(625,000円×0.3)×12ヶ月+(625,000円×0.2+625,000円×0.1)×6ヶ月≒4,000,000円

不動産鑑定士 鈴木 修