建物の明渡しのための金銭給付金額、すなわち立退料を求める場合、借家の立退料としては、一般に借家権の対価である借家権価格、移転実費の他、営業用借家の場合には明渡しに伴う営業上の損失等が考えられる。
従って、まず借家権価格を求め、さらに移転実費、営業上の損失等を考量して鑑定評価額等を決定することが多い。
美容院では営業の移転に伴う顧客の喪失等の損失が考えられるので、一時休業期間等を考量する。
厚生労働省編「経営実態調査報告(平成12年度)」による美容業(健全企業)の売上高に対する利益率は14.5%、人件費38.9%、材料費14.2%、賃借料5.6%、減価償却費4.0%、その他営業費8.7%とされており、最近は人件費、家賃支出等の固定費の負担増が進んでいるため効率的な経営が期待されている。
また国民生活金融公庫総合研究所編「小企業の経営指標(2004年)」による美容業の業種別平均は売上高総利益率85.2%、人件費対売上高比率52.0%、さらに規模区分(1~4人)で売上高総利益率85.2%、人件費対売上高比率48.7%、都市区分(50万人以上の都市)で売上高総利益率85.3%、人件費対売上高比率51.3%である。
過去3年間の収入平均は10,000,000円、仕入平均は900,000円である。この数値は上記と比して概ね妥当なものと判定する。従って純収益は、9,100,000円/年、758,000円/月と判定し、他に移転することにより1ヶ月休業、半年間30%、以後半年間20%・10%各減収とした。
758,000円+(758,000円×0.3+758,000円×0.2+758,000円×0.1)×6ヶ月≒3,500,000円
やきとり等飲食店(大衆酒場)を営んでいる場合、営業の移転に伴う顧客の喪失等の損失が考えられるので、一時休業期間等を考慮して当該金額を判定した。
大衆酒場は、「居酒屋」に代表される遊興飲食店であり、ビール、焼酎、日本酒等の酒類の提供を中心に、つまみとなる食品を提供する業態が一般的である。外食産業のなかで「大衆酒場」に焦点を当てると次の特徴が認められる。
従ってその立地は、商店街のほかに通勤途中の駅周辺、或いは住宅地域の外周付近といったところが多い。
従来、居酒屋・大衆酒場といえば男性独占の場という感があったが、近年は女性客の来店が増加する傾向にある。さらに、これまでは男性グループで来店していた顧客が家族連れで、食事を兼ねた楽しみの場として利用するなどの変化も見られるようになり、最近はこのようなニーズをとらえた居酒屋チェーンの台頭が著しい。このような外部環境の中、顧客はほとんどが男性で、1~2名単位の利用者が中心の、「酒を飲む」という直接的な欲求を満たす古いタイプの大衆酒場は、近年の居酒屋人気に反して衰退傾向にある。低価格での飲食・サービスの提供を、客席形態で実施する居酒屋の大手チェーンが主な競合であり、価格帯については大衆酒場のほうが安価ではあるが、サービスや飲食とともに会話や時間を楽しみたいという消費者も多く、大衆酒場が押されているのが実際の状況である。
大衆酒場は、①商品は安価である、②狭い店舗・少ない従業員でも営業が可能、という特徴を有しているため、一般飲食店の収益性を左右するような商品の販売価格や人件費のコストダウンによる収益性アップは難しい。また安価でメニューを提供するという性格上、大きな価格変動も見られない。大衆酒場の収益性に影響を与えるのは主として売上高であり、特に来店客数と回転率によって決定される。
TKC経営指標(平成25年版・黒字企業平均)による「酒場・ビアホール」の売上総利益率は65.4%と高いものの、販売費・一般管理費の対売上高比率は62.7%であり、売上高営業利益率は3%程度と低くなっている。ただし大衆酒場は、店舗面積が小さく、従業員数も少ないという特徴があるため、販売費・一般管理費は小さくなる傾向にあり、その結果売上高営業利益率も高くなるものと考えられる。
また日本政策金融公庫総合研究所編「小企業の経営指標(2010年)」による「酒場・ビアホール」(健全企業297社平均)の売上高総利益率は68.7%、人件費対売上高比率は35.7%である。
過去3年間の売上(収入)平均は約10,000,000円、仕入平均は約2,500,000円である。この数値は上記と比して概ね妥当なものと判定する。従って純収益は、7,500,000円/年、625,000円/月と判定し、他に移転することにより1ヶ月休業、1年間30%、以後半年間20%・10%各減収とした。
625,000円+(625,000円×0.3)×12ヶ月+(625,000円×0.2+625,000円×0.1)×6ヶ月≒4,000,000円