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はじめに 自然災害から学ぶこと

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 東日本大震災の傷跡がまだ癒えぬまま、今回、熊本地震が発生し、とても大きな被害を受けてしまい、政府は激甚災害指定の政令を閣議決定しました。
 被害の影響も甚大で、倒壊した住宅の下敷きや土砂崩れに巻き込まれる等の人的被害も多く、また、道路や上下水道、交通機関等のライフラインも寸断され、依然として、避難所や避難所に入れず、車中や野宿をしている人々が多く、被災者の体調等の不安が気がかりです。
 一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

 さて、今回の熊本地震の発生で、多くの被害を受けたケースとして、倒壊した家屋等の下敷きになったり、地震による斜面の崩壊、同時発生した大雨による土砂崩れや土石流等の土砂災害の巻き添えになったりしたケースが多くあります。
 最初の大きな地震の後に、少し落ち着いた後、自宅等へ戻り、その後のさらなる大きな余震が起こり、被害に遭われた方も多いと報道されていました。

 今までは、日本は元々地震の多い国でありますので、建築工法なども地震に耐えうる工法を日々研究されていたことと思います。
 しかしながら、東日本大震災と同様に、今回の熊本地震も我々の予測を超えたところでの自然の驚異を感じざるを得ません。

 今回の組合レポートでは、遡れば、阪神・淡路大震災・新潟県中越地震・東日本大震災・熊本地震等、短期間のうちに大きな地震が立て続けに発生したことを受けて、今後、関東でも同様の地震がいつ起きてもおかしくはないと思い、また昨今、爆弾低気圧等による記録的な大雨による自然災害も顕著であることから、今後、不動産に関して知っておくと便利な自然災害等関連情報をご紹介したいと思います。

 今回は、地震や水害等の自然災害の中で、①土砂災害から学ぶこと、②活断層から学ぶこと、及び地震に付随して発生する③建物等の倒壊の危険性についてご紹介したいと思います。

①土砂災害から学ぶ

 まず、土砂災害についてですが、現在、「土砂災害防止法」という法律が施行されておりまずが、土砂災害防止法は正式には「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」と呼ばれ、2000年(平成12年)に法律が成立しました。

 この土砂災害防止法が制定されるきっかけとなったのは、平成11年6月に発生した広島県における土砂災害です。

 土砂災害防止法とは、法律上は「土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難態勢の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進しようとする」というものです。
 具体的には、急傾斜地の崩壊、土石流、地すべりが発生した場合に、住民等の生命や身体に危害が生じる恐れがあると認められる区域を「土砂災害警戒区域」、それらの区域の中で、建築物に損壊が生じ、生命・身体に著しい危害が生じる恐れがあると認められる区域を「土砂災害特別警戒区域」と定め、建築等に一定の制限を加えること等により土砂災害から国民の生命や身体を守ろうとする法律です。

参照:国土交通省 / PDF ※「土砂災害防止法の概要」(国土交通省)を加工して作成

土砂災害警戒区域・特別警戒区域

土砂災害警戒区域
急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命または身体に危害が生じる恐れがあると認めれる区域であり、危険の周知、警戒避難体制の整備が行われます。
特別警戒区域
急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずる恐れがあると認められる区域で、特定の開発行為に対する許可制、建築物の構造規制等が行われます。
警戒区域では
警戒避難体制の整備
土砂災害から生命を守るため、災害情報の伝達や避難が早くできるように地域防災計画に定められ、警戒避難体制の整備が図られます。
 特別警戒区域ではさらに
  • 特定開発行為に対する許可制
    住宅宅地分譲や災害時要援護者関連 施設の建築のための行為は、基準に 従ったものに限って許可されます。【都道府県】
  • 建築物の構造規制
    居室を有する建築物は、建築基準法に 定められた、作用すると想定される 衝撃等に対して建築物の構造が安全で あるかどうか建築確認がされます。【都道府県または市町村】
  • 建築物の移転等の勧告
    著しい損壊が生じるおそれのある 建築物の所有者等に対し、移転等の勧告が図られます。 移転等については、住宅金融支援機構 ハザードマップ確認状況 の融資等の支援を受けられます。【都道府県】

 しかしながら、法律制定後、2011年時点で基礎調査が完了したのは1件のみ、2014年の時点では13件に留まり、多くの都道府県で調査に約20年程度を要する見込みとなっていました。
 2011年に国土交通省が各都道府県に行った聞き取りでは、調査が進まない主な理由として、住民への説明に時間を要すること、予算確保が難しいこと、調査の外部委託に伴う調整に時間を要することなどが挙げられました。
 法律上、指定の際には関係市町村長の意見を聴くこととされていますが、住民の同意を要するとは規定されていないものの、実際には説明会を開くなどして住民への説明を行う自治体が多く、反対する住民の理解を得るまでに時間を要することが少なくない事情があり、反対理由として指定により不動産価値や地価が低下することへの懸念が指摘されることがありました。

 その後、2014年8月、元々過去に本法律の制定の契機となった災害が発生した同じ広島県内の広島市安佐南区・安佐北区を中心とした地域で土砂災害が多発しましたが、この土砂災害では被災地域の多くが警戒区域に指定されておらず、大きな被害を受けた安佐南区の八木地区や緑井地区では、基礎調査を終えて住民説明会を控えていた時に災害が発生する事態となり、本法律の課題が浮き彫りとなりました

 これを契機として2014年11月に本法律が改正され、基礎調査後早期の段階で公表を行うことなどが定められ、また、気象庁と都道府県が共同で発表している土砂災害警戒情報を市町村長および住民に周知することを義務付け、市町村防災会議において警戒区域ごとに避難経路と避難場所、土砂災害警戒情報の伝達方法を定めることとしました。

土砂災害の種類は3つに分類されます。

第1は「急傾斜地の崩壊」です。
傾斜度が30度以上で高さが5メートル以上の急傾斜地が崩れ落ちる自然現象を指します。
第2は「土石流」です。
山腹が崩壊して生じた土石や渓流の土石が雨水などと一体となって流下する自然現象です。
第3は「地滑り」です。
土地の一部が地下水などに起因して滑る現象、またはこれにともなって移動する現象となっています。

 このように土砂災害による危険性は、地震による偶発被害以外にも集中豪雨などの影響によっても地盤のゆるい場所、山間の住宅地、過去に山林だった場所を開発した大規模住宅団地などでは我々が身近に住んでいる場所にも危険が背中合わせになっていることを日々実感しなければならないと思います。

※「土砂災害防止法の概要」(国土交通省)を加工して作成

神奈川県土砂災害情報ポータル

 このような背景の中、最近では、各公共機関でも土砂災害エリアの積極的な調査を進めており、ホームページなどでも簡単にお住まいの地域の指定状況を調べられますので、いくつかご紹介します。

 例として、当組合のある神奈川県をご紹介いたします。

神奈川県ではホームページで「神奈川県土砂災害情報ポータル」をいうページがあります。
ここでは最新の「土砂災害の恐れのある区域」「土砂ハザードマップ」などが閲覧出来ます。

 土砂災害の恐れのある区域をクリックすると、県内の指定状況等が地図で閲覧可能であったり住所検索も出来ますので、是非お住まいのエリアを調べてみてください。こうしてみると土砂災害の危険性は山間部だけでなく意外と身近にあることがおわかり頂けると思います。

土砂災害の恐れのある区域

土砂ハザードマップ

 次に、土砂災害ハザードマップは市町村が作成したハザードマップを公表しているサイトへのリンク一覧です。
もう少し細かく知りたい場合、各市町村のホームページで指定の内容等を調べることが出来ます。
 その他には、「土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域の法定図書など」というページで、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」に基づいて基礎調査を行い、指定し告示をした区域および基礎調査結果(未指定区域)の法定図書を公表しています。

土砂災害警戒区域・特別警戒区域の決定図書など

国土交通省のハザードマップポータルサイト

また、国土交通省のハザードマップポータルサイトと使うと全国的な土砂災害等の危険性を調べることが可能です。

 その中で「重ねるハザードマップ」を見てみたいと思います。クリックすると「防災に関する情報」というタグがありますので、その中で「土砂災害危険箇所」「土砂災害警戒区域等」というところを開いてチェックを入れます。

 今回の熊本地震では、南阿蘇村の阿蘇大橋が崩落したという情報が大きく報道されました。
 報道によると、阿蘇大橋付近で大規模な斜面崩壊が発生し、国道57号と交差する道路の間に架かっていましたが、橋台と橋桁の一部を残して谷底に姿を消しました。

熊本地震南阿蘇村1
熊本地震南阿蘇村2

(※引用写真:アジア航測)

先のハザードマップでこのエリアを見てみますと、このようになります。

熊本地震南阿蘇村 ハザードマップ
 これで見ると、地図中央の南阿蘇大橋付近や東海大学寮周辺には、土砂災害警戒区域等の指定はありませんでした。
 しかしながら、赤い色に部分は「土砂災害危険箇所(土石流危険渓流)」、薄紫色のエリアは「急傾斜地崩壊危険箇所」に指定されており土砂災害の恐れのある箇所を調査し公表しているエリアとなりますので以前から災害の恐れのあったエリアと言え、そこに予期せぬ大地震と大雨が重なって被害が拡大したものと考えられます。

 また、熊本県のホームページでも土砂災害情報マップがありましたのでご紹介します。



同じ南阿蘇大橋周辺のマップです。

 1枚目のマップが土砂災害計画区域又は特別警戒区域の指定状況ですが、直接、南阿蘇大橋や東海大学には指定されていませんが、近くに警戒区域等が指定されており、また2枚目のマップでは、南大橋背後の山林に土石流危険渓流の危険箇所が広範囲に指定されており、このとこからも直接的に指定が無くても周辺に危険な土砂災害の恐れのあるエリアであったと推察されます。

(不動産鑑定士 齋藤隆一)