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統計データから読み解く箱根湯本・商業地価格のメカニズム

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 神奈川県西部エリアは、普段は比較的落ち着いた不動産取引が行われている地域ですが、その中で「箱根」は特別といえる地域です。地元の方はもちろん、都心や海外からも熱い視線が注がれる、非常に注目度の高いエリアだからです。
今回は、誰でも見ることができる「オープンデータ」を活用して、箱根の玄関口である「湯本駅前(県5-1地点)」の地価が、世の中のどんな数字と連動しているのかを探ってみました。

(1)地価と「物価」は、切っても切れない仲【相関 0.96:ほぼ完全に連動】

●商業地価格と消費者物価指数【相関 0.96】

商業地価格と消費者物価指数【0.96】


そもそもモノの値段(価格)は、世の中全体の「物価の波」と、そのモノ自体の「人気(需要と供給)」で決まります。土地も例外ではありません。調査の結果、箱根の地価と「消費者物価指数」の連動性は0.96という数字になりました。これは「世の中の物価が上がれば、箱根の土地代もほぼ間違いなく上がる」という、極めて強い関係があることを示しています。

(2)「今の景気」より「将来の期待」で値段が決まる?

●地価とGDP(日本の稼ぐ力)の関連【相関 0.51】

地価と「GDP(日本の稼ぐ力)」の関連【相関 0.51】

一般的に景気が良くなれば企業の業績も上がり、不動産への投資も活発になります。そこで、日本の景気を示す「実質GDP」と比較したところ、連動性は0.51と「まずまず」の結果でした。

●地価と株価の関連【相関 0.82】

地価と「株価」の関連【相関 0.82】      

ここで面白い事実が見えてきました。今の景気を映す「GDP」よりも、投資家の心理が反映される「日経平均株価」の方が、地価との連動性がずっと高かったのです。不動産を買う人たちが「今の景気がどうか」よりも「これから先、景気が良くなりそうか」という将来の予測を重視して投資を決めているからだと考えられます。

(3)「金利が上がれば地価は下がる」という常識のウソ?

●商業地価格と長期金利【相関 0.93】

商業地価格と長期金利【0.93】

不動産業界には、「金利が上がれば、地価は下がる」という鉄則があります。ローン負担が増えれば買い手が減り、価格が下落するのが市場のセオリーだからです。ところが箱根のデータが示したのは、なんと「金利も地価も一緒に上がっている」という結果でした。
最初「いよいよ老眼が進んだかな?」と自分の目を疑いましたが、計算ミスではありません。この「現象」には、主に2つの理由があると考えられます。

1. 「実質金利」で見れば、まだ超低金利

表面上の金利(名目金利)は上がっていますが、それ以上に物価が上昇しているため、「実質金利(名目金利 - 物価上昇率)」で見ると、実はまだお金を借りやすい状況が続いていると言えます。投資家にとっては「金利負担が増えるスピード」よりも「モノの価値が上がるスピード」の方が早いため、投資意欲が衰えていないのです。

2. 「政策的なブレーキ」がまだ効いていない

現在の金利上昇は、景気が良すぎて市場が加熱しているからではなく、物価高を抑えるための「政策的な誘導」という側面が強いものです。そのため、不動産市場を冷え込ませるほどのインパクトには至っておらず、むしろ「将来もっと上がる前に買っておこう」という駆け込み需要や、箱根のような強いブランド力を持つエリアへの資金集中を招いている可能性があります。

(4)意外!「観光客の数」と地価はあまり関係がない?

●商業地価格と訪日外国人【相関 0.19】 ・観光入込客数【相関 0.02】

商業地価格と訪日外国人【0.19】観光入込客数【0.02】

観光地といえば「観光客が増えれば土地も値上がる」と思われがちですが、データを見ると連動性は極めて低いという意外な結果になりました。これは、不動産を買う側が「台風やコロナで一時的に観光客が減った」としても、それを一時的なアクシデントだと捉え、「箱根なら必ず活気を取り戻す」と長期的な視点で信じているからだと思われます。

(5)「泊まる場所」の増え方とは、しっかり連動!

●商業地価格と旅館施設数【相関 0.96】・住宅宿泊事業数【0.79】

商業地価格と旅館施設数【0.96】・住宅宿泊事業数【0.79】

湯本駅周辺の「旅館の数」や「民泊の数」の増え方とは非常に高い連動性が見られました。商業地にある店舗・施設も「将来の観光客」をターゲットにしている点では同じ。こうした宿泊需要の広がりが、エリア全体の地価を押し上げる大きなエンジンになっているようです。

(6)結論:データを超えた「市場の熱量」を掴むために

今回の調査で、統計数値を相関関係(地価との連動性)の高い順に並べると、以下のようになりました。

       
順位 統計データ項目 相関係数
(地価との連動性)
1位 消費者物価指数・日経平均株価・旅館施設数 0.96
4位 長期金利 0.93
5位 住宅宿泊事業数(民泊など) 0.79
6位 実質GDP(日本の稼ぐ力) 0.51
7位 訪日外国人数 0.19
8位 観光入込客数 0.02

ここで着目すべきは、地価と「訪日外国人数」や「観光客数」との連動性の低さでしょう。本来、観光地であれば最も地価に直結しそうな項目が、意外にも最下位層に沈んでいます。 実質GDPも含め、これらに共通するのは「新型コロナ流行時に数値を大きく下げた」という点です。一方で、地価はそこまで大きく崩れませんでした。その結果として、統計上の連動性(相関係数)が低くなっているのです。
このデータが物語っているのは、湯本駅前の不動産価格が「過去に何人来たか」という実績よりも、「将来、どれほど価値が戻るか」という予測を重視して成立しているということです。一時的なアクシデントで客数が減っても、不動産市場は「観光地・箱根の将来は盤石だ」と揺るぎない判断を下しているからに他なりません。

ところで、今後の動向を正しく判断するためには、ネット上で統計数値を検索するだけでは不十分です。市場参加者がどのような将来予測をもって行動しているか、日頃より地道に「市場のムード」を掴むことが何より重要です。 また、箱根には自然公園法などの複雑な公法規制や、公共・民間それぞれが供給する温泉の権利など、専門知識がなければ見抜けない調査項目が多岐にわたります。こうした複雑なパズルを解き明かせるのは、一体…。

少々強引な着地ではありますが(笑)、箱根の不動産価格については、私たち「神奈川県不動産鑑定協同組合」にお任せください!

(不動産鑑定士 原 哲也)

神奈川県不動産鑑定協同組合